
台湾で卵子提供を受けた日本人女性が177人に上り、また産まれたお子さんが110人いると、ニュースで話題となっている「卵子提供」。
そもそも、卵子提供ってどういうこと?と思われている方も少なくないと思います。
卵子を第三者から提供される、と言うことは、ご自身の卵巣から卵子が得られない、または得られても妊娠できる良好な卵子ではない、方が治療の対象となります。
良好な卵子ではない、とは、体質や病気、ではありますが、女性の皆さんにやがて訪れる卵巣の老化現象が主な原因で、晩産化が進む現代の不妊治療ではとても大きな課題となっています。
かねてより女性の卵巣の老化についてお伝えしてきました。
以前にこのブログ記事でも紹介したのは、早発閉経(現在医学用語では早発卵巣機能不全と呼びます)の患者さんが、第三者の女性から卵子を提供され、ご主人との精子で受精卵を得て、子宮に移植、無事に出産に至った、と言うものでした。
早発卵巣機能不全、定義としては40歳になる前に閉経になってしまう病気で、もちろん閉経になってしまうのですから、排卵は出来ない、つまり妊娠は出来ません。
女性の性を決めるX染色体に異常があることや、いくつかの内科疾患、また抗がん剤治療を受けた後にも起こりえます。産婦人科クリニックさくらでも20代で早発卵巣機能不全となってしまった患者さん、何名か治療を行いました。一部の大学病院では妊娠させることが出来ないか、研究が続いています。
閉経になっても子宮が正常であれば、卵子さえあれば妊娠できるのが女性の身体。
そこで卵子提供を受けて妊娠する方法です。
かつてより姉妹の方から卵子提供を受けたり、海外に渡航して治療することが行われています。
しかし、卵子を提供する側って、簡単ではありません。そもそもどのように卵子を採るか、ご存知でしょうか。
体外受精など高度生殖医療では採卵、と言って、卵巣から卵子を採って治療に用いますが、卵子提供する場合も同じことをしなければなりません。
そこには以下のような問題点があります。
・卵子を提供する人に排卵誘発や採卵など、不必要な治療負担を強いる。
・卵子提供してくれる人に対する謝礼や治療に伴う副作用に対する補償をどうするか。
・卵子提供を受けた方の妊娠は、前置胎盤や妊娠高血圧症候群の合併率が高くなり、母児ともにリスクが高まり、また出産時の大量出血が有為に高くなります。
これは卵子提供を受ける方の年齢が一般的に高いことも一因ですが、自分の卵子ではない、精子もご主人のもので他人ですから、全く自分と遺伝的な繋がりのない受精卵との免疫学的な原因も推測されています。
・そして産まれたお子さんの、出自を知る権利です。
自分の遺伝的な母親は誰なのか、産み育ててくれたお母さんが、実は遺伝的には母でないことを知ったとき、お子さんはアイデンティティを失うことが知られています。この台湾での卵子提供は、この出自を知る権利が認められていない問題をはらんでいます。
・子供は望まれて産まれたとは言え、このように出自に関する悩みを産まれたときから持たされ、これは決して産まれたお子さんが望んだことではありません。
などなど、クリアしなければならない課題は大変多いです。
私は卵子提供を完全に否定する気持ちはありません。赤ちゃんを望んでいるお気持ちと、何とかしてあげたい提供者の気持ち、痛いほどわかりますが、やはり国に求められるのは法規制、つまり一定のルール作りだと思います。
日本では生殖医療に関する法規制がほとんど無く、日本産科婦人科学会などの学会規定に則って我々は治療を行っています。
どのような患者さんは受けてもよいか、また受けてはならない制限も設けるべきです。
そして産まれたお子さんの権利を保証することが最も大切だと思います。
早発卵巣機能不全はご自身が自覚するよりも早く閉経になってしまう病気ですが、根本的には、卵巣機能の低下がみられる前に、女性たちが産み育てる社会環境の整備が急務だと繰り返し訴えたいと思います。