
「がんは遺伝する」「がん家系がある」と昔からよく言われていましたが、多くのがんは、家族的に、似た生活習慣や環境によるものとされ、明らかな遺伝や、がん家系は分かっていませんでした。
近年、遺伝子解析、遺伝子診断が進み、10種類ほどの遺伝性腫瘍が分かってきました。
今回、承認申請された治療薬は、遺伝性卵巣がんに効果が期待される「オラパリブ」で、最も有名な遺伝性卵巣がんで、米国の女優アンジェリーナ・ジョリーさんが乳房や卵管・卵巣を切除したHBOCに対する効果が期待されています。
女性に関するがん遺伝子の変異(異常)が注目されている二つの症候群について説明します。
HBOC(えっちぼっく、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)
Lynch(りんち)症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん;HNPCC)
BLCA1/2遺伝子の異常により、乳がんや卵巣がんの発がんリスクが高く、そのためアンジェリーナ・ジョリーさんは幼い子ども達に対する責任感から、あえて自らの健康な臓器を切除することを決断しました。
健康な臓器を切除した医学倫理や手術後の生命予後についてはまだ議論が為されているところで、医学界や社会に大きな影響を与えました。
「がん家系」とか「がん体質」とよく言われますが、発がんには遺伝以外にも生活習慣や放射線、環境汚染などの環境因子、その他現代の医療・科学では解明できていない因子が多数あります。
そもそもがん患者、がん死が増えている背景には、衛生観念・環境が整い、健康意識が高まったため、感染症や血管障害で亡くなる方が激減して寿命が長くなった、次に死亡する原因として「がん」が相対的に増えたに過ぎません。
しかしながら、若くしてがんに罹った、とか、一度がんに罹ったのにまた罹ってしまった、という話も身近にあるのではないでしょうか。
アンジェリーナ・ジョリーさんで有名になったHBOCは、遺伝性乳がん卵巣がん症候群のことです。
乳がんや卵巣がん以外にも、前立腺がんや膵臓がんが関係していると言われています。
一方、リンチ症候群は大腸がんをはじめ、子宮体がん、卵巣がん、胃がん、小腸がん、腎盂(じんう)・尿管がんなどを起こし、MSH2、 MLH1などの遺伝子の変異が原因とされています。
上に挙げたようながんが、
若いうちに発症した
両側の乳がん発生
など、遺伝子変異がある可能性の高い方を主に対象として、最近では大学病院を中心に遺伝性腫瘍外来のような専門的な診療が行われています。
(初出:2017年8月8日)
順天堂大学の産婦人科で遺伝性腫瘍を専門とする後輩が、一部記事の補筆修正を手伝ってくれました。この場を借りて感謝申し上げます。